今国会において議員立法による再審法改正の早期実現を求める声明
1 昨年、いわゆる袴田事件の無罪判決が確定し、かかる事件の審理を通じて、現行刑事訴訟法における再審に関する定め(以下「再審法」という。)において、証拠開示制度が定められていないこと、再審請求審において、検察官による不服申立てが認められていることなど、再審法の不備が浮き彫りにされ、これが事件報道などによって、広く社会に認知されることになった。
2 これを受けて、最高検察庁の畝本直美検事総長は、2024年(令和6年)10月8日、検事総長談話を公表した。ところが、かかる内容は、上訴権を放棄しながらも、その内実は、裁判手続外で、再審無罪判決を一方的に批判し、袴田巌氏の名誉を毀損しかねないものであった。かかる談話は、刑事司法の一翼をになう公益の代表者たる地位にあるものとして極めて適切さを欠いたものというほかない。
その後、最高検察庁は、同談話をふまえ、同年12月26日、袴田事件における再審手続及び捜査・公判に関する検証結果を記載した報告書を公表した。このなかでは、第1次再審請求から、約30年も経過して、ようやく「5点の衣類」のカラー写真等が開示されたことについて、当時においては、検察官の対応に問題がなかったとし、再審開始決定を不服として、検察官が即時抗告した対応についても、問題があったとは認められないなどと指摘されている。
このような検事総長談話や、上記報告書によれば、最高検察庁は、未だに、袴田事件が、無実である袴田氏を死刑囚として50年近くにわたり身体拘束し、袴田氏を日々死刑執行の恐怖にさらし続け、甚大な人権侵害をもたらした「死刑えん罪事件」であることさえ、真摯に受け止めておらず、再審法において、証拠開示制度が定められていないこと、再審請求審において検察官の不服申立てが認められていることこそが、再審法の不備であるとの問題意識も有していないことが改めて明らかになったものといえる。
3 このようななか、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟(以下「再審法改正議連」という。)」は、2025年(令和7年)1月28日、実務者協議会を開き、今国会(第217回国会)で、刑事再審に関する刑事訴訟法の一部を改正する法律案(以下「再審法改正案」という。)を議員立法で提出し、成立を目指す方針であることを明らかにした。また同年2月26日には、議連総会を開催し、再審法改正案の取りまとめを行うとともに、かかる方針を再確認した。今回、再審法改正議連が、取りまとめた再審法改正案は、①再審請求審における証拠の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定の整備を内容とするものである。なお、再審法改正議連は、同年2月14日時点で、参加国会議員数が373名と全国会議員の過半数を超え、今なお増加している。
4 この流れを受けて、これまで一貫して、再審法改正に消極的な態度を示してきた法務省が、2025年(令和7年)2月7日、再審制度の見直しを法制審議会に諮問する方針を表明し、今月にも正式に諮問がなされる見通しである。
しかしながら、法務省刑事局の中枢を占めるのは、まさにその検察官である。上記の経過をみれば、法務省が主導する法制審議会において、検察官による証拠開示や、再審請求審における検察官による不服申立ての禁止など、必要な改正が、速やかになされることは、およそ考えがたい。むしろ、上記のような議員立法が成立することを懸念して、このような方針を定めたものと断ぜざるを得ない。
5 えん罪は、国家による最大の人権侵害である。まずはこの原点に立ち返り、えん罪被害者の速やかな救済、とりわけ今なお、自らの無実を主張しつづけている高齢のえん罪被害者や、死刑判決が確定したえん罪被害者の救済のために、今、何をすべきかを考えなければならない。
このような観点からみれば、今国会において、上記①ないし④の再審法改正の根幹部分について、まずは上記議員立法において再審法改正を早期に実現することこそが、必要であるものと思料する。
6 よって、本会は、今国会において、上記議員立法による再審法改正の早期実現を強く求めるものである。
2025年(令和7年)3月15日
再審法改正をめざす市民の会OSAKA
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